EYSCテクノロジーチームが「5年で400%成長」を実現できた理由、AI時代におけるテック人材の本質的価値とは?
AIの劇的な進化は、コンサルティング業界に一つの冷徹な問いを突きつけている。「人間のコンサルタントは、本当にどこまで必要なのか」――。そんな過渡期特有の不安が広がる中で、逆風を推進力に変え、大きな成長を遂げている組織がある。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)の「テクノロジー・ストラテジー&トランスフォーメーション部門(TST)」だ。
TSTはここ5年で、売り上げを400%に伸ばしてきた。その驚異的な成長ぶりはEYのグローバルネットワークでも大きな話題となり、海外のリーダー陣から「なぜ日本のTSTはそこまで伸び続けられるのか」と視察対象にもなっている。
この記事では、EYSCのTSTを率いるパートナー・忽那桂三氏にインタビューを実施し、同組織がクライアント企業から選ばれ、成長し続けられる真の理由に迫った。そこで語られたのは、単なるスキルセットやAI活用のハックではない。AI時代における「テック人材」の再定義、そしてコンサルティングファームの存在意義をアップデートする極めて本質的なコンサルタント論だった。
聞き手:奥井 亮 (株式会社ExSeed)

AI時代にコンサルタントが価値を出し続けるための「たった一つ」のマインドセットとは?
━━ AIの進化により「コンサルティング業界」の構造そのものが劇的に変容を迫られています。業界を取り巻く変化を、忽那さんはどのように俯瞰されていますか?
AIにコンサルタントの仕事が奪われるという声がありますが、それは私たちが「一切進化しなかった」場合に限った話です。私たちはAIを使うことでコンサルティングの品質と効率性を高め、進化し続けていく必要があります。
その時にコンサルティングファームとして、決して忘れてはならないことがあります。それが「イシュードリブン」を徹底することです。
コンサルタントはクライアントの業界・業務において、「今、解くべき真の問題(イシュー)は何なのか」を徹底的に突き止める。そしてそれに対してどのような支援ができるかを粘り強く考え抜く。この「問い=イシュー」から始める姿勢こそ、コンサルタントの生命線です。
イシュードリブンの対義語は、「ソリューションドリブン」です。顧客の課題解決よりも、自分たちの提供する製品や手法が優先されてしまう状態を指します。実は最近のAIブームは、AIという商品を売るソリューションドリブンに陥っているのではないかと危惧しています。
━━ AIブームが「AI活用という名のソリューションドリブンに陥っている」という指摘はとても興味深いですね。
「AIを使って何かやりましょう」というのでは、課題はおざなりになってしまいます。必ずイシューから入る必要があります。そしてイシューを解決する手段の一つとしてAI活用があります。この順番を間違えてはいけません。コンサルタントはAIをイシューのために用いるべきです。そしてTSTが成長を実現できている理由も、実はイシュードリブンにあると思っています。

EYSCのTSTが驚異の「5年で400%成長」を実現できた理由
━━ TSTの成長率は、急成長を遂げてきたコンサル業界の中でも、市場平均から突出した数値に見えます。
そうですね、TSTはここ5年で400%成長を実現することができました。人員の増加率は220%程度ですので、人数の増加率を大きく上回るペースで売り上げが伸びています。TSTはテクノロジーを武器として戦略から企業の変革までを支援する「総合的なテクノロジーコンサルティング」のチームと謳っていますが、イシュードリブンに徹底してこだわり、組織構築を進めてきました。
━━イシュードリブンな組織を作るために、 業界の定石を覆すような戦略をいくつも実施されていますね。
はい、まず一つ目は、請負システム開発はやらないと決めています。
━━大規模なシステム開発案件は、巨額の収益が見込める「高収益なビジネス」のはずですが、思い切った経営判断ですね。
話はとてもシンプルで、イシュードリブンを掲げたところで、組織のメニューがソリューション軸になっていたら、ソリューションドリブンな組織になってしまいます。私たちは成果物の完成を保証するのではなく、クライアントの課題解決に伴走するという立ち位置を明確に打ち出しています。これこそがコンサルの本質だと思っています。
━━組織体制においても他ファームに先駆けて、テクノロジー組織に「業界(セクター)割り」を導入していますね。
その通りです。これがイシュードリブンな組織を作るための二つ目のポイントです。TSTの中には「業界(セクター)と業務(ビジネス)」のサブチームがあります。業界サブチームは12年前のエネルギー会社向け支援から始まり、現在では官公庁、自動車、製薬・医療機器、TMT、そしてエネルギー&商社の領域で構成されています。
━━ファームによっては、テクノロジー部隊がインダストリーチームから業務を請け負う形が主なようですが、そことは一線を画している印象です。忽那さんはどう捉えていますでしょうか?
テクノロジーを武器としてクライアントの課題に価値を出していくことには、ずっとこだわりを持って取り組み続けています。なぜテクノロジーチームにセクターフォーカスを入れたかというと、私のSIerとしての原体験があります。SIerはもちろんクライアントさまのためにシステムを作りますが、再販したりプロダクト化したりすると、いつのまにか売り物起点に変わってしまいます。私もそれですごく苦労したことがありました。売りたいけど売れない、全然クライアントが話を聞いてくれないという経験がありました。
そんなある時、金融何十年というシニアな方が一緒についてくれた時に、目からうろこが落ちるような経験がありました。私の売り物はシステムだったわけですが、まったく売れないことに悩んでいた時。その方がクライアントとの会話において、業界動向や、今後のビジネスの方向性などを踏まえた視点から会話したところ、私の体験ではありえないほど盛り上がったのです。テクノロジーの枠にとどまらず、お客様のビジネスを深く理解する必要性を、痛いほど思い知らされた出来事でした。
━━AI時代におけるテック人材のあり方にも通じる話ですね。
まさにその通りです。業界や業務などを理解してこそ、本当のイシュードリブンになれると思います。それが業界と業務のサブチームを設けている理由です。これはAI時代においても変わらないコンサルタントのあり方です。また顧客への価値提供にフォーカスするからこそ、必然的に他チームとのコラボレーションも生まれています。

イシュードリブン×コラボレーションが生む「卓越したサービス価値」
━━イシュードリブンとコラボレーションの具体例として、どのような事例がありますか?
パブリック領域におけるヘルスサイエンスのプロジェクトが良い例です。このプロジェクトは、厚生労働省系の外郭組織が抱える「高騰する医療費を最適化したい」という課題と、市町村などの自治体が抱える「国民の健康増進に貢献したい」という2つの課題からスタートしました。
このプロジェクトでは、糖尿病が重症化し人工透析に至る患者を減らすことを目標に据え、EY内のデータサイエンスのユニットと連携しています。そして、医療系のビッグデータを活用してAI分析を行い、人工透析のリスクが高い人々への支援を実現する仕組みを作ったのです。
この取り組みは2年かけて全国へと展開され、さらには製薬会社が別の疾患向けにこのデータを活用したいと参画するなど、複数部門・複数組織を巻き込んだ一大プロジェクトへと発展しています。
━━社会課題解決に重きを置く、とてもEYらしい事例ですね。
ここでしっかりと強調しておきたいのが、「社会課題」=イシューに注目したことで生まれたプロジェクトである、ということです。「AIをどう活用するか」というソリューション起点の発想では、このようなものは生まれません。
━━プロジェクトのような部門横断的なコラボレーションへの取り組みも、EYSCの特徴の一つだと思います。コラボレーションがよくある「掛け声倒れ」で終わらない理由は何なのでしょうか?
チームを越えたコラボレーションが成功する背景には、EYSC独自の評価制度があります。一般的には、部門間で協力すると「どちらの部門の売り上げにするか」といった不毛な縄張り争いが起きがちです。
ですがEYSCでは、セールスとデリバリーの公平な評価方法が明確に定義されており、例えば複数部門で連携して案件を獲得した場合、セールス実績を各個人の貢献度に応じて計上できる仕組みがあります。これはデリバリーへの貢献も同様です。
現場のコンサルタントが「協力した方が自分たちにとってもメリットがある」とロジカルに納得できるKPI設計があるからこそ、クライアントの課題解決にのみ集中できます。
EYSCのTSTが「求める人材」と、コンサル未経験者が活躍できる理由
━━TSTチームには今、どのような経歴のメンバーがいるのでしょうか?
現在のTSTメンバーは、7〜8割がSIやコンサルなどでのシステム開発経験者、残りの2〜3割が新卒や事業会社のIT部門出身者で構成されています。採用にあたって、特定の高度なITスキルセットを絶対条件としているわけではありません。
ご自身で直接システム開発を行っていなくても、クライアントやユーザーの立場でシステム導入に深く関わった経験があれば十分に活躍できると思っています。
ただし、プロジェクトリーダーやプロジェクトマネジメントに類する経験があると、入社後にコンサルタントとしての基礎的なコミュニケーションスキルなどを学ぶ際、キャッチアップの負担が減り、立ち上がりが早くなる傾向があります。
━━採用において特に重視している点はどこですか?
私たちが重視しているのはマインドセットです。具体的には「ウィル(成し遂げたい強い意志)」と、アウトプットに対する「こだわり」、そしてチームメンバーに対する「リスペクト」の3つです。
TSTのカルチャーを一言で表すなら、「お互いをリスペクトし合うこと」に尽きます。自分の数字だけを追い求め、他部門とのコラボレーションができない人や、周囲をリスペクトできない人は、私たちの組織にはなじめませんし、孤独を感じてしまうでしょう。
━━イシュードリブンを遂行するために、まさに求められるマインドセットですね。成長し続けているチームだからこそ、TSTには比較的若いメンバーが入り、そして早期にプロモーションしている印象があります。
そうですね、TSTではマネージャー以上の高いポジションでの採用に加えて、コンサルタントやシニアコンサルタントといった若手・中堅クラスでの採用も積極的に行っています。
事実、中途入社したメンバーは平均2年程度というスピードでプロモーションを果たしており、新卒入社から短期間でパートナーへと駆け上がった事例や、30代半ばの若手でパートナーを務める者も出てきています。
━━TSTに興味を持つ方に向けて、最後に一言お願いします。
SIerや事業会社からコンサルティングファームへの転身は不安がつきものですが、TSTではメンバーの志向に合わせてサブチーム(業界/業務)を柔軟に異動できるほか、別領域のプロジェクトに参画できる仕組みもあります。
経験豊富な仲間がサポートし合う風土が根付いており、30代半ばからでもコンサルタントとして十分に飛躍できる土壌が整っています。社会課題の解決に向けて、私たちと共に、イシュードリブンを追求したいという方々との出会いがあることを、とても楽しみにしています。

忽那桂三 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社EYSCのテクノロジー・ストラテジー&トランスフォーメーション部門をパートナーとして率い、テクノロジー活用によるビジネス変革において社会に貢献する役割を担う。
2015年にパートナーに昇格。20年以上テクノロジー領域のさまざまな業務に従事してきた経験を生かし、テクノロジー変革のプロフェッショナルとしてEYSCのサービスの品質監査を担当。
米国セントラルワシントン大学において理学士号を取得。
インタビュー後記
「5年で400%成長」という驚異的な成長率以上に、「AI活用がソリューションドリブンに陥ってはならない」という忽那氏の警鐘が強く心に残りました。
世の中が「いかにAIを使うか」という手段に走る中、TSTはあくまで「解くべき課題は何か」というイシュードリブンを徹底しています。そのこだわりは、高収益なシステム開発をあえて請け負わない決断や、テクノロジー×セクターという組織作りにもしっかりと体現されています。
「人=コンサルタントのあるべき姿」こそ、AIには代替できない究極の差別化要因です。技術に踊らされず、泥臭く「問い」を解き続ける。TSTの挑戦は、AI時代のビジネスシーンに、一つの鮮やかな答えを提示しているように感じました。