AI時代に問われる、コンサルティングファームの「これからの価値」

コンサルティングファームのこれからを語るとき、これまでは「デジタルトランスフォーメーション(DX)」や「総合ファーム化」が主な論点とされてきました。しかし、ここに来て新たに無視できなくなっているのが「生成AI(GenerativeAI)」の急速な進化です。
ChatGPTやCopilotのようなツールによって、情報収集や資料作成、戦略検討の下地となる分析プロセスの多くが、自動化・高速化されつつあります。つまり、従来「コンサルタントの強み」とされてきた多くの業務が、AIによって“再定義”され始めています。
コンサルティングファームの価値は今も昔も変わらない
コンサルティングファームは、支援会社の一つであるということは以前ご紹介しました。
コンサルティングファームの本質的な価値は、今も昔も変わりません。
それは、クライアント企業が自社だけでは乗り越えるのが難しい課題に対し、第三者としての知見や外部視点をもって支援するということです。とくに、スピード・精度・再現性が求められるビジネスの現場においては、自社内で取り組むよりも、外部に委ねたほうが効果的である領域が確実に存在します。
この構造の背景にあるのが、いわゆる“情報の非対称性”です。たとえば、あるフレームワークやベストプラクティスが、特定の業界や企業に適用されて成果を上げた実例を、ファームは多数保有しています。一方で、クライアント企業は自社内の経験にとどまりがちで、選択肢の広がりやリスクの回避において限界があります。
かつてはこの「フレームワークの保有と活用」が、コンサルタントの価値の中心でした。いわば、ある種の“型”を持っていることそのものが競争力になっていたのです。しかし今、その“型”はAIでも再現可能な時代に入りつつあります。フレームワークの適用や分析作業の効率化において、AIは極めて高い精度を発揮するようになってきました。
それでもなお、人間の介在価値が残るのは、「どの型を、どの文脈で、どのようにカスタマイズするか」という判断や、関係者の温度感・政治的背景・感情の機微といった“言語化されない前提”を踏まえる力にあります。
今後、コンサルティングファームの価値は、「知っているか」から「どう共感し、どう動かすか」へと、より人間的な能力にシフトしていくはずです。
クライアントや社会の変化が、伴走の“中身”を変えている
価値自体が変わらない一方で、コンサルティングファームに求められる“仕事内容”は、ここ数年で大きく変化しています。
かつて主流だった中期経営計画の立案や、あるべき組織像の設計といった、いわゆる「ピュア戦略」領域の案件は明らかに減少傾向にあります。代わりに、テクノロジーを活用した事業変革や、経営体質の改善、実行支援まで含めた“変革伴走型”のプロジェクトが中心になってきました。
その背景には、クライアント企業側の成熟があります。多くの企業が長年にわたりコンサルタントを活用してきたことで、戦略のフレームや意思決定のプロセスが社内に蓄積され、また、インターネットや書籍から容易にベストプラクティスにアクセスできるようになったことも影響しています。たとえば、マッキンゼーの「7S」やBCGの「PPM」など、以前は専門家だけが扱うような知識が、今や一般ビジネスパーソンの共通知識となりつつあります。
さらに最近では、AIの進化がこの傾向に拍車をかけています。生成AIは「戦略の構造」や「代表的な解法」の提示を高速かつ網羅的にこなせるようになっており、戦略策定の“入り口”部分においては、AIとの協業が現実的な選択肢になっています。
その結果として、コンサルティングファームに持ち込まれる戦略案件は、量的には減りつつも、より複雑で、より高難度なテーマへと収れんしています。すなわち、既知の枠組みで片付けられない“不確実性の高い戦略テーマ”こそが、今後のコンサルティングの主戦場となっていくことが予想されます。
生成AI×変革実行が、次の主戦場になる
これまでコンサルティングファームは、時代ごとに変わるクライアント企業の課題に応じて、提供価値の形を柔軟に変えてきました。戦略立案から業務改善、IT導入支援、DXと、その時々の“変化”に適応してきたのです。
しかし今、AIの登場により、そのような「適応」や「進化」では収まらない、“構造そのものの転換”が求められています。
ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM)は、資料作成やリサーチといった従来の支援業務を瞬時に代替しつつあり、さらに企業がAGI(汎用人工知能)をファインチューニングして社内導入することで、「社内AIコンサル」機能すら持ち始めています。
この変化が意味するのは単なる効率化ではありません。コンサルティングファームの“外部の知見を持ち込む存在”という立ち位置そのものが、AIの進化によって揺らぎ始めています。特にデータドリブンなグローバル企業では、外部のコンサルを介さずにAIを使って戦略判断や意思決定を行う体制がすでに構築されています。
その中でコンサルティングファームが果たすべき役割も、大きく転換しています。
知識や資料の提供ではなく、AIをどう使いこなし、組織変革をいかに“人が動く形”で実行・定着させるか。つまり、テクノロジーと人間の「接点」を設計・推進するパートナーとしての価値が問われているのです。
この文脈では、AIにできない「人間の価値」がより明確になります。たとえば、組織内の摩擦を乗り越えて合意形成を主導する力、複数の部門をつなぐ“橋渡し”の力、そして現場に変革を根づかせる継続支援の力。これらは依然としてAIが担えない領域であり、ファームが差別化すべきコア領域です。
さらに、生成AIの台頭はファーム内の働き方も変えつつあります。これまで分業されていたセールスとデリバリーの垣根が薄れ、AIを使いこなすことでコンサルタント個人がプロジェクト全体を回す「自己完結型」のスタイルが広がる可能性すらあります。
生成AIの進化によって、コンサルティングファームを取り巻く環境は大きく変わりつつあります。
これまでのように「知っていること」「型を持っていること」だけでは、十分な差別化にはなりません。いま、ファームそのものが新たな価値を模索するタイミングを迎えているのだと思います。
とはいえ、この変化は大きな可能性でもあります。
AIが得意とする領域と、人が担うべき価値の境界が明確になることで、ファームが果たせる役割はむしろ広がっていくでしょう。
これからのコンサルティングファームには、「正解を示す」存在から、「問いをともに考え、組織に根づかせる」存在へと進化するチャンスが広がっています。
クライアントと共に未来を描き、変化に寄り添うパートナーとして、どのような価値を発揮できるのか。その問いに、柔軟に、前向きに向き合っていくことが、これからの時代を楽しむ鍵になるのではないでしょうか。