キャリアは自由だからこそ厳しい

自由の国というイメージがあるアメリカも、かつては終身雇用であったことはあまり知られていません。アメリカも1970年代までは終身雇用であり、その終焉は情報産業の興隆によるものでした。

日本においてもバブルの崩壊とともに終身雇用からの脱却が叫ばれましたが、なかなか進まない状況が続いていました。しかし、IT技術の発展に伴い、いよいよ終身雇用の維持は難しくなってきました。

日本で終身雇用が崩壊したその先には、アメリカで起きたことと同じような変化が見られると予測する専門家も多くいます。
変化の例としては、アメリカでは富の集中が挙げられます。去年の5月には、GAFA+Mの時価総額の合計が東証1部約2170社の合計を上回ったことが話題になりました。
また、終身雇用が崩壊したことにより、アメリカではできる仕事によって役割が決まるジョブ型の雇用形態が一般的になりました。ジョブ型の雇用形態の中では、人々はより高いスキルを身に着けられたり、より力を発揮できたりする環境を望みます。
その結果、人々の転職に対する心理的ハードルは低くくなり、転職を考えていなくてもエージェントとキャリアについて日常的に話したり、LinkedInに登録し他社のリクルーターと気軽に話したりと、キャリアや転職に対してとてもオープンな土壌となりました。

今回は、アメリカでのこのような変化を踏まえて、これからの時代においてキャリアをどう捉えていければいいのかをお話ししたいと思います。

キャリアは自由だからこそ厳しい

キャリアという言葉は様々な使われ方をしますが、私は「志に近づくための道筋」という意味で使います。そして、今の時代のキャリアを一言で表すなら、「キャリアは自由だからこそ厳しい」と私は答えます。

これまで多くの人にとってキャリアは組織に与えられるものでした。しかし、IT技術の発展が社会の目まぐるしい変化や不確実性を生み、企業は終身雇用を維持することが難しくなりました。終身雇用が当たり前でなくなると、自ずと転職する人が増えてき、だんだんと転職という選択肢が市民権を得ていきました。
それに加えて、IT技術の発展によりビジネスのインフラが急速に整備され、組織だけでなく個人でもお金を得ることが比較的容易になりました。それによって「働く」という行為の意味合いは、「お金を得る手段」から「自己実現そのもの」に変化しつつあります。
また、IT技術の発展はSaaSやMaaSなどの新しい業界や、カスタマーサクセスやデータサイエンティストなどの新しい職種を産みだしました。更には、働き方、働く場所、さらには働く時間さえも選べるようになりつつあり、個人がより多様に、そして自由にキャリアを描けるようになってきました。

そして自由だからこその厳しさがあります。それは、個人個人が自分のキャリアについて自身で考え、選び、その責任を持つ必要があるということです。
まず、キャリアは年齢とともに狭まっていきます。『キャリアのルールと歩み方』でも述べましたが、将来像を描き、現在地を把握した上で、必要経験やスキルを明らかにし進んで行くことにより、なりたい姿に近づくことができる一方で、それを怠るとなりたい姿になれません。
また、市場からみた自分の立ち位置、持っているスキル、得てきた経験などが個人にダイレクトに問われるようになってきました。今は、有名な会社、大きな会社に入れば安泰というわけではありません。自分自身が何ができるか、どのような価値を発揮できるのかがより重要視されるようになってきました。

このような時代においては、目の前の仕事に一生懸命打ち込めば、勝手に自分の望むキャリアが手に入るかというと、残念ながらそうとは限りません。自らに「将来どうしたいか」、もしくは「どうありたいか」を問いかけ、今の自分の立ち位置を見つめなおし、今後どのような経験やスキルが必要かを考えたうえで、それが得られる環境を自分でつかみ取る必要があります。それが、自由だからこその厳しさです。

キャリアにおいては価値観と将来性(マーケットバリュー)が重要

キャリアを考えていくうえで特に大切なのは、自身の価値観とマーケットバリューです。

価値観は「仕事を選ぶ軸」から深堀りして明らかにする

キャリアにおける価値観とは、「キャリアにおいて何を大切にしたいか?」という問いに対する答えです。
この問いへの答えるには、まずは仕事を選ぶ軸、つまり仕事を選ぶときにどんな要素を大切にするか、という観点から出発すると考えやすいと思います。要素の分け方はいくつかありますが、私は、業務内容・年収・ワークライフバランス・ブランドの4つに分けて考えることをおすすめしています。これらの中で、自分にとって何が大切かを考え、ざっくりと優先順位をつけます。優先順位をつけ終えたら、それぞれについて具体化と深堀りを繰り返していき、価値観(自分の強みの源泉)にまで落とし込んでいきます。
以上の手順を実際に行うと、例えば以下のようになります。

自身の価値観と合った仕事には自ずと熱中することができます。職を変えることで、知らず識らずのうちに仕事に対して深く集中し、さらには時間を忘れて取り組むことで、自分や周りが驚くような成果がでた、という方を私も何度も見てきました。
成果や成長が認められれば、会社からより大きな仕事を任せられたり、裁量権が与えられたりします。そうすると、いっそう仕事が意義深く、楽しいものになります。このサイクルを繰り返していると、いつの間にか視野が広がり、そして視座が上がり、自分が見ている景色が変わっていることに気が付きます。

マーケットバリューは有用性と希少性で決まる

さて、キャリアにおいて価値観の他に考えるべきことがあります。それは将来的なマーケットバリュー、つまり市場における自身の価値です。
いくら自分の価値観に合っていたとしても、そのキャリアに将来性が無いのであれば、努力に見合った結果や成果は出づらいでしょう。
ここで大切なことは、同じスキルや知識を持っていてもその価値が業界や職種などによって異なるということです。
例えば、ITコンサルタントのスキルセットを持っている場合、IT戦略やIT企画の領域ではマーケットバリューは高い一方で、営業職としてのマーケットバリューは高くはありません。

マーケットバリューは、その人材が持つスキルの有用性希少性で決まります。
有用性とは、そのスキルが無ければその領域ではパフォーマンスが発揮できないような、いわば必要条件です。例えば、コンサルタントでいえば、論理的思考力やドキュメンテーション、プレゼンテーションがなければ、パフォーマンスを発揮することは難しいでしょう。
希少性とは、そのスキルがあれば更に活躍ができるというものです。コンサルタントでいえば、特定領域、例えば、フィンテック・ブロックチェーン領域やMaaS領域などに、強い専門性をもっているような場合がそれに当たります。イメージとしては、有用性のうえに乗っかり、その人のマーケットバリューを更に高めているものが希少性です。

「マーケットバリュー = 年収」というわけでなない

ちなみに、マーケットバリューが高ければ、年収が高くなることが多いのですが、その2つは必ずしも一致するとは限らないため分けて考える必要があります。
例えば、利益率が高い企業では、マーケットバリューに対して年収が高くなる可能性があります。
そのため自分のマーケットバリューを把握するためには、外からの視点を持って客観視することも一つの手段です。例えば、今の時点で1,000万円の年収があるのであれば、他の年収1,000万円の仕事にはどのようなものがあるのか、何が求められているのかを見ることで、自分の位置を相対化できます。その上で、自分は現在の年収に見合った価値を出せているのか、もしくは年収は自分のマーケットバリューに見合っているのか、その差分をどうするべきなのかを考えることで、自分のこれから進むべき道が見えやすくなります。

それに加えて、社会や業界の状況はますます早いスピードで変わっていきますので、社会の動きを常に把握してキャリアの舵をいつでも取れるよう準備しておくことが必要です。
例えば、これから斜陽産業になる領域や、AIやロボットなどに代替される領域ではマーケットバリューが下がっていきますので、よほどの理由がない限り避けて通るのが良いと思います。

キャリアに向き合えば、豊かな人生につながる

冒頭で、キャリアは自由だから厳しいということをお伝えしました。
昔と異なり、自分でキャリアを考え、描かなければ、自分が望む道を歩むことができない、あるいはマーケットバリューが上がっていかないということを述べました。
しかし、その「厳しさ」を把握しキャリアに真剣に向き合うことで、キャリアは自由に設計できます。それは、皆さんの豊かな人生に繋がっていると確信しています。この記事が皆さんのキャリアの一助になっていましたら幸いです。

最新のコメント

表示できるコメントはありません。